当研究室の最新論文紹介
1. Kazuaki Yoshioka, Kotaro Yoshida,
Hong Cui, Tomohiko Wakayama, Noriko Takuwa, Yasuo
Okamoto, Wa Du, Xun Qi, Ken Asanuma, Kazushi Sugihara,
Sho Aki, Hidekazu Miyazawa, Kuntal Biswas, Chisa
Nagakura, Masaya Ueno, Shoichi Iseki, Robert J
Schwartz, Hiroshi Okamoto, Takehiko Sasaki, Osamu
Matsui, Masahide Asano, Ralf H Adams, Nobuyuki
Takakura & Yoh Takuwa
Endothelial
PI3K-C2α, a class II PI3K, has an essential role in
angiogenesis and vascular barrier function
(血管内皮細胞のクラスII型PI3キナーゼPI3K-C2αは、血管新生及びバリア機能に必須である。)
掲載雑誌名
NATURE MEDICINE
18, 1560–1569 (2012) doi:10.1038/nm.2928
脂質リン酸化酵素・フォスファチジルイノシトール−3−キナーゼ(PI3K)ファミリーのクラスIメンバー
(p110α,
p110βなど)
は、細胞の増殖、分化、遊走、生存に必須のシグナル伝達分子としてよく知られています。今回私達は、これまで生理機能が不明であったクラスIIα型PI3K-C2αのノックアウトマウスを用いた実験から、発生期・生後の生理的および病的(虚血、腫瘍)血管新生ならびに血管恒常性維持にPI3K-C2αが重要な役割を果たすことを明らかにしました。PI3K-C2αは内皮細胞の初期エンドソーム、クラスリン被覆小胞及びトランス・ゴルジ装置に局在します。PI3K-C2αは、細胞内小胞輸送および小胞上でのシグナル伝達に必須の役割を果たします。すなわち、PI3K-C2αは接着分子VE-カドヘリンの内皮細胞ジャンクションへの小胞を介した輸送やVEGF受容体の内在化に寄与し、VEGF刺激によるエンドソーム上での低分子量Gタンパク質RhoA活性化に必要です。活性化されたRhoAはVE-カドヘリン結合を安定化してバリア機能を高めるとともに、細胞遊走や細胞接着にも必要です。生存可能なPI3K-C2αヘテロ欠損マウスでは、アナフィラキシーに対する感受性の増強、アンジオテンシンII投与に対する解離性大動脈瘤形成の発症率上昇が見られます。したがって、PI3K-C2αは血管形成と血管障壁の健全性に重要な役割を担い、血管疾患の新しい治療標的となる事が期待されます。
2. Seok
YM, Azam MA, Okamoto Y, Sato
A, Yoshioka K, Maeda M, Kim KI, Takuw Y. Enhanced
Ca2+-Dependent
Activation of PI3KC2 alpha Rho Axis in Blood Vessels of
Spontaneously Hypertensive Rats.(自然発症高血圧ラットの血管では、Ca2+依存的なPI3K-C2α-Rhoシグナル経路の活性が亢進している )
掲載雑誌名
Hypertension. 56(5):934-941
(2010).
Rhoを介したミオシン軽鎖
(MLC) ホスファターゼ (MLCP) の抑制は、Ca2+依存的なMLCキナーゼ活性化とともに作動し、血管平滑筋収縮の主要なシグナル経路として機能している。著者らは、脱分極および受容体アゴニストにより引き起こされる血管収縮に、Ca2+誘発性かつPI3K-C2α依存的なRhoおよびRhoキナーゼ活性化を介したMLCPの抑制が関与していることを、最近明らかにしている。しかしながら、Ca2+
やPI3K-C2αによるMLCPの調節が高血圧で変化しているかどうかは、全く不明であった。そこで、自然発症高血圧ラット
(SHR) において、Ca2+-PI3K-C2α-Rho-MLCP経路の役割を研究した。PI3K-C2αはSHRが由来するウイスター京都ラットにおいて、様々な部位の血管に発現が確認され、高KClで刺激するとPI3K-C2α活性は上昇した。高KCl刺激はまた血管Rho
活性とMLCP調節サブユニットタンパクMYPT1のトレオニン853のリン酸化をひきおこし、両反応はPI3K阻害薬により抑制された。高血圧を発症したSHRの腸間膜動脈や他の血管では、PI3K-C2活性、Rho活性、MYPT1のトレオニン853のリン酸化が亢進していた。一方、クラスIの属するPI3K
p110aの活性は増大していなかった。しかし、高血圧発症にまだ至らない段階では、PI3K-C2αや
Rhoの活性、MYPT1リン酸化は正常であった。Ca2+チャネルブロッカーニカルジピンを高血圧SHRに静脈内投与すると、PI3K-C2αやおよびRhoの活性、MYPT1リン酸化が正常化し、血圧も低下した。PI3K阻害薬ワートマンニンの投与によっても、PI3K-C2αやおよびRhoの活性、MYPT1リン酸化、血圧が正常化した。以上の成績は、SHRは、Ca2+-PI3K-C2α-Rho経路の活性亢進によりMLCP抑制が増強し、この結果高血圧となっていることを示唆する。Ca2+依存的なPI3K-C2α-Rho経路は新しい創薬候補と考えられる。
3. Du
W, Takuwa N, Yoshioka K, Okamoto Y, Gonda K, Sugihara K,
Fukamizu A, Asano M, Takuwa Y. S1P2, the G protein-coupled
receptor for sphingosine-1-phosphate, negatively regulates
tumor angiogenesis and tumor growth in vivo in mice.
(2型スフィンゴシンー1-リン酸受容体はマウスにおいて腫瘍血管新生と腫瘍増殖を抑制する)
掲載雑誌名
Cancer Research 2010;70: 772 -781
脂質メディエータースフィンゴシンー1-リン酸(S1P)は、血管内皮細胞においては、S1P1、S1P3
両受容体を介して細胞遊走を促進し、S1P2 受容体を介して細胞遊走を抑制する。S1P1
受容体は発生期の血管新生や腫瘍血管新生に関与していることが示されている。しかし、S1P2
受容体の腫瘍血管新生における役割は不明である。S1P2遺伝子座にLacZ遺伝子をノックインしたマウスを樹立し、LacZ活性を指標にして各組織におけるS1P2発現細胞を同定した。多くの臓器で血管内皮と血管平滑筋がS1P2を発現している主要な細胞であった。次に、S1P2ノックアウト(KO)マウスにLewis肺癌、B16黒色腫両腫瘍細胞を移植したところ、野生型マウスに比較して移植腫瘍の血管新生・成熟が亢進し、腫瘍増殖が亢進していた。移植腫瘍内の血管新生領域にS1P2を発現する細胞が多数認められた。内皮マーカーCD31の免疫染色とLacZ活性染色の二重染色により、腫瘍血管の内皮細胞と中膜平滑筋細胞の両細胞がS1P2を発現していた。S1P2-KOマウスから単離した血管内皮細胞の細胞遊走と増殖は野生型(WT)マウスに比較して亢進し、遊走・増殖に必須の低分子GタンパクRacの活性とAkt活性が亢進していた。
KOマウス内皮細胞を腫瘍細胞とともに皮下に植えたところ、WT内皮細胞と腫瘍細胞の移植に比較して、血管新生、腫瘍増殖がともに亢進していた。S1P2-KOマウスでは、腫瘍内に浸潤している表面マーカーCD11b+,CD45+の骨髄由来細胞が増加し、これらの細胞はS1P2を発現していた。野生型マウスにS1P2-KO骨髄を移植すると、腫瘍増殖と血管新生が亢進した。S1Pは単離した野生型マウス骨髄細胞の遊走を抑制したが、S1P2-KOマウス骨髄細胞の遊走はむしろ促進した。以上より、内皮細胞および骨髄細胞の両者に発現しているS1P2受容体が腫瘍血管新生を抑制すると結論される。
4. Xun
Qi, Yasuo Okamoto, Tomomi Murakawa, Fei Wang, Osamu Oyama,
Ryunosuke Ohkawa, Kazuaki Yoshioka, Wa Du, Naotoshi
Sugimoto, Yutaka Yatomi, Noriko Takuwa, Yoh
Takuwa.
Sustained delivery of
sphingosine-1-phosphate using poly(lactic-co-glycolic
acid)-based microparticles stimulates Akt/ERK-eNOS mediated
angiogenesis and vascular maturation restoring blood flow
in ischemic limbs of mice.
(ポリ乳酸―グリコール酸共重合体を基剤としたスフィンゴシンー1-リン酸徐放微粒子製剤による持続性放出はマウス虚血肢においてAkt/ERK-eNOS
を介して血管新生および血管成熟を促進し血流を回復させる)
掲載雑誌名
European Journal of Pharmacology 2010 In press.
生理活性脂質であるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は,血管内皮の細胞膜受容体S1P1およびS1P3を介して作用し、増殖、遊走、管腔形成を促進する。またインビボでは、胎生期の血管形成や腫瘍血管新生に重要であることが知られている。虚血肢において血管新生療法は重要な治療法と期待されているが、いまだ確立された血管新生治療法はない。私たちはこれまでに、マウス後肢虚血モデルにおいて,S1P溶液の連日局所投与が血管新生を促進し,血流回復を促進することを報告した。そこで、S1Pを徐放化し、投与回数が少なくとも有効な血管新生治療製剤の開発をめざした。まず、生分解性のポリ乳酸-グリコール酸重合体(PLGA)を基剤に用いて、S1Pを封入した徐放性S1P微粒子製剤(PLGA-S1P)を合成した。異なる重合度・半減期を有する種々のPLGAの中で、PLGA5005が最も安定したS1Pの放出プロフィールを示した。次に、マウス大腿動脈結紮による後肢虚血モデルを作成し、さまざまな投与間隔と投与量でのPLGA
(PLGA5005)-S1Pの血流回復効果を比較検討した。PLGA-S1P製剤(18
pmol)の3日間隔投与は血流回復を最も促進し、後肢の壊死抑制効果及び後肢機能改善効果を示した。PLGA-S1P製剤は毛細血管数を増加させ、壁細胞の発達を促進した。また、PLGA-S1P単独投与は血管新生療法の副作用である組織浮腫を引き起こすことはなく、VEGFによる浮腫の発生を抑制した。PLGA-S1P製剤の投与は、虚血肢においてリン酸化酵素Akt,ERK活性化をひきおこし、eNOSを活性化した。NO合成酵素阻害剤L-NAMEの投与はPLGA-S1P製剤による血流回復と血管新生を部分的に抑制した。さらに、PLGA-S1P製剤は血管新生に関与する骨髄由来CD45陽性,CD11b陽性あるいはGr-1陽性細胞の虚血部位への集積を促進し、HGFなどの血管新生因子の発現を促進した。以上の結果から,PLGAを用いた徐放化S1P製剤の虚血肢に対する血管新生治療薬としての有効性が期待される。
5.
N.
Takuwa, S. Ohkura, S. Takashima, K. Ohtani, Y. Okamoto, T.
Tanaka,K, Hirano, S. Usui, F. Wang, W. Du, K. Yoshioka, Y.
Banno, M. Sasaki, I.Ichi, M. Okamura, N. Sugimoto, K.
Mizugishi, Y. Nakanuma, I. Ishii, M. Takamura, S. Kaneko,
S. Kojo, K. Satouchi, K. Mitumori, J. Chun, Y. Takuwa
S1P3-mediated cardiac fibrosis in sphingosine kinase 1
transgenicmice involves reactive oxygen species.
掲載雑誌名 Cardiovasc Res
2010;85:484-93.
心不全は高齢化社会の我が国において、極めて頻度の高い心臓疾患であり、心筋の線維化は心不全の主要な原因である。本研究は世界で初めて、脂質性生理活性因子スフィンゴシンー1-リン酸の過剰産生が心筋線維化の原因となり、その分子機構として、活性酸素産生、低分子Gタンパク、TGFベータが関与していることを証明した。